
朝ドラの王道といえば、「女性一代記あるいは半生記」「戦争などの困難が描かれること」「健気なヒロイン」「元気で明るい内容」の4要素。『梅ちゃん先生』はそれら全てを網羅しているうえ、ストーリーが「濃すぎない」「深すぎない」「適度に軽くユルく、ツッコミどころがある」ところも強みです。
朝ドラの起源には「ラジオ小説」があると言われており、忙しい時間帯に「耳でわかる」内容だということは元来重要なポイントでした。しかも、『梅ちゃん先生』はストーリーが「ヒロイン至上主義」、常に中心に梅ちゃんがいることが、よりわかりやすさにつながっています。
しかも、戦後の大変な時代のはずなのに、どこかすっとぼけたおかしみがある。「悪人がいない毒のなさ」も、安心感になっています。
ときには「そんなバカな」と思うような、少しファンタジーめいた予定調和の世界こそが、朝ドラの良さ。特別なことはなく、いつもそこにある「日本の朝ごはん」のような存在が『梅ちゃん先生』最大の魅力なのです。

困難に負けず、明るく元気で、ちょっとドジ。そうした「王道朝ドラヒロイン」の原型は、『おはなはん』(1966年)で作られました。梅ちゃんはまさに“正統派朝ドラヒロイン”ですが、少し違うのは、ドジ&ダメ度がかなりハイレベルなこと。
たとえば、勉強は全くダメで赤点をとるほど。自分のミスで米の配給がもらえず、家族のために一生懸命作った料理は激マズのどんぐり汁だったり、戦災孤児のために川で魚とりをして川に落ちたり……。そのくせ、自分のこともきちんとできないドジっ子なのに、周りの人のことは放っておけない「お節介気質」に、周りはハラハラさせられつつ、つい身内のような気持ちで見守ってしまいます。
さらに、梅ちゃんの魅力は、少女時代のドジっ子ぶりから想像もつかないほど、後に強気な「女の色気」を身につけていくこと。医師になってからの自信に満ちた表情は、別人のようで、子どもだとばかり思っていた梅ちゃんに、感じてはいけない「大人のエロス」を密かに見出す楽しみもあります。

舞台は、昭和20年から昭和36年までの東京・蒲田。オープニングのジオラマには、狭い路地や大衆酒場、駄菓子屋、割烹着姿のお母さんなどが見られ、本編にはラジオ、白黒テレビなども登場します。
でも、懐かしいのは、モノや場所ばかりじゃありません。たとえば、今は絶滅寸前にも思える(?)「頑固親父」。梅ちゃんの父・建造は、いつも仏頂面で、笑顔を見せることも、家族などに優しい言葉をかけることも苦手な堅物で、しばしば自分の弟や息子などと対立します。そんな頑固親父が最終的には「自分を変える」挑戦をする場面は、必見です。
また、ズカズカ入り込んできたり、聞き耳を立てたり、まるで自分のことのように心配してくれるお節介であたたかい「ご近所さん」の存在も、日々の毒のないささやかなケンカも、懐かしい昭和の風景です。
リアルタイムに知る年配層には懐かしく、若い層には新鮮にうつる「昭和ノスタルジー」に、心がほっこりしてくるはず!

朝ドラには、家や親が結婚相手を決めた時代の話も多数ありますが、「恋愛」となると、また別。朝ドラの恋愛には、大きく分けて2つのパターンがあります。
1つは、『君の名は』などの「最初から思い合う二人に障害がふりかかる」パターンで、もう1つは「第一印象が最悪だった2人が、ケンカをするうちに、恋に発展する」パターン。より王道なのは後者のほうで、現在放送中の『ごちそうさん』や、『ウェルかめ』、古くは『あぐり』などがあり、『梅ちゃん先生』もその路線を進んでいくように見えました。
梅ちゃんの場合は、35点の答案用紙を拾われ、恥をかかされるという、最悪の出会いをします。相手は、生真面目で堅物で変人の医科大生・松岡敏夫。梅ちゃんは、彼の言動がまるで理解できず、気になってしまい、気づくと恋に落ちているのです。そして、このままゴールインするかと思われたのですが……。
「初恋のトキメキ」から、「あたたかい愛」へ。そして、「憧れ・尊敬の目線」から、「同じ目線」へ。ヒロインの女性としての成長とともに、愛のカタチも変化し、思いがけないどんでん返しが訪れます。様々な議論も呼んだ「二人の男性」との愛の行方に、ご注目下さい!